恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
通された広い座敷には、本当に男の人ばっかり十五人ほどだろうか。
スーツの人が何人かと、後は職人さんだろうか、作業着のグループが一塊になっている。
営業部長さんだとか、お偉いさんにお酌する時はすごく緊張したけれど。
「足立さん、お久しぶりです!」
「一花ちゃん、遠いとこよく来たねえ。また話せると思って楽しみにしてたんだよ」
足立さんは相変わらず優しくて面白くて、ほっと気が抜ける。
他の職人さんたちも紳士的で、お酌も遠慮がちに受けてくれて、なんだ全然大丈夫だ、と。
思えたのは最初だけだった。
「一花ちゃんも飲んで、ほらほら」
「あ、はい。いただきま、」
「これ食べる? 上手いよ~」
「あ、じゃあそれもいただ、」
「はいあーん」
「いやいやいや! 自分でいただきます!」
さすがに「あーん」は全力で遠慮させていただくと、ぎゃはははと盛大に笑われた。
遊ばれてる。
揶揄われてる。
あんたらついさっきまで無骨な職人って雰囲気醸し出してたくせに!
酒が入り始めて三十分!
たった三十分でこれか!
こういう絡み方する人種、別に初めてじゃないけれど、相手が取引先というだけでこうも面倒くさいとは思わなかった。
友達や会社の飲み会なら、とっくに糸ちゃん以下の扱いか、完全放置してるレベルだ。
「初々しいねえ、やっぱ若い女の子いると酒も美味いわ」
「あ、ありがとうございます」
そんなんで味が変わるわけないだろ。
という突っ込みは全力で我慢した。