社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
「清水くん、本当に美帆ちゃんのこと好きよねぇ」
10時を過ぎた頃、給湯室でお茶を入れていた私の背後から声がした。
「島田さん」
振り返ると、そこには私より三年先輩の島田麗香(しまだれいか)さんがいた。
ミルクティーブラウンの髪をいつも綺麗に巻いていて、スタイルも抜群で、おまけにこの整った顔立ち。
社内でもかなりモテていると評判の彼女は私より三つ年上の29歳だが、年齢よりも随分と若く見える。
「清水くん、美帆ちゃんが深川くんと付き合い始めてから元気ないけど、それでもまだアプローチされてるでしょ?」
口角を柔らかくあげて、興味津々な様子の島田さん。
「あはは。公表してからは、何も言われてないですよ。他に好きな人でも出来たんじゃないですかね」
ここでモテてるアピールをしたって仕方がないし、真樹と付き合い始めてからちゃんとしたアプローチを受けていないのも事実だ。
私は、嘘をつかない範囲内で島田さんにそう答えると、トレーに乗せたお茶を持ち上げた。
「またまた。清水くん、この間の飲み会で〝まだ好きだ〟って言ってたよ? まあ、 深川くんには敵いっこないんじゃない? って言っておいたけどね」
「ははは、本当ですか?」
「本当、本当」
モテる女は大変だよね、と手をひらひら振る島田さん。彼女は、笑顔のまま給湯室を去って行った。