社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
「どうせまた清水のことでしょ」
「分かってるなら聞かないでよね。本当、他人事だと思って」
「はは。だって実際他人事でしょ」
笑いながら給湯室の奥に入っていく真樹が、わたしを通り過ぎるとコーヒーメーカーの前に立った。
「性格悪い。少しくらい、親身になって考えてくれてもいいじゃない」
給湯室の奥に立っている彼を振り返り見て、ぼそっと不満をこぼした私。そんな私の言葉を聞いた真樹は、何故かわたしよりも奥の方に視線をやった。
それから、コーヒー用のカップをメーカーに設置し、ドリップを始めるスタートボタンを押した彼は、こちらを見ると突然、別人のようににこりと笑う。
何となく、ある予感がして身構える。すると、その予感の通り彼は私にゆっくり近づいてきた。
「嘘だよ。他人事だなんて思ってるわけないでしょ」
正直ちょっと嫉妬した、と付け足して私をじっと見つめる彼の瞳は、あまりにも真っ直ぐで不覚にもドキッと胸が高鳴ってしまう。
「ちょっと、真樹」
「絶対、他のやつになんか渡さないから」
「ま、真樹、近い」
これでもかというほど顔を近づけ、私の髪に指を通す真樹。
私は必死で平静を装おうとするけれど、トレーを持っている手が少しだけ震えた。