社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
真っ直ぐ、優しく向けられる視線と拳一つ分もないお互いの顔の距離に、ドクンと何度もリズムよく跳ねる胸。
しばらくしてやっと適度な距離感ができると、彼は何事もなかったかのように表情を変えた。
「タナカさんが覗いてた」
そう言って、仕上がったコーヒーカップを手に取ると、やはり彼は何もなかったかのように去ろうとした。
「突然スイッチ入れるのやめてよ!」
「急だったんだからしょうがないでしょ。そっちこそ、いい加減慣れたら? この生活を続けていくためには臨機応変に対処しないといけないんだしさ」
彼の言葉に、私は反論してやろうと開いていた口をゆっくり紡いだ。
私達は、社内では誰もが認める〝仲良しなカップル〟だ。でも、実際そうなのかと聞かれれば、実はそうではない。
私達は、ある理由から〝仲良しカップル〟を〝演じている〟。いや、正確には、演じなくてはならないのだ。
「もういい。どいて」
彼の言動に惑わされる自分が嫌で、でも、かと言って彼に上手く反論もできず。そんな自分に腹が立った私は、トレーをぎゅっと握り直すと、足早に給湯室を出た。