社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
「そんなに怒らないでよ。悪気はなかったんだ」
淡々と箸を動かす手を口に運びながら、表情を変えずに真樹が言った。
「でも、むしろ褒めて欲しいところなんだけどなあ。掟の第二条、ちゃんと守ったんだからさ」
口角を少し上げて笑った彼の視線が、壁際に置かれたテレビの横に移動した。私もつられるように視線を移動させる。そこには、私が書き綴った我が家の掟五か条が張り紙されている。
〝お互いより良い環境でゲームを行うための掟、第五条。
第一条、家賃光熱費食費等々、全て割り勘で同棲すること
第二条、会社では隙のないくらい仲の良いカップルを演じること
第三条、お互いゲームをする時間は邪魔しないこと(干渉しないこと)
第四条、新しいゲームを仕入れる為に節約を心がけること
第五条、お互いのゲームは共有し合うこと〟
そう書き綴られた貼り紙の第二条。彼は、それを守ったと主張している。
「分かってる。だから、別にあんたに怒ってる訳じゃない」
私達は、お互いにゲームをより良い環境で行うために今の関係を築いている。もちろん、二人の間に〝愛〟なんてものは存在しない。所謂、仮面カップルなのだ。
「じゃあ河合さんは何に怒ってるの?」
その証拠に彼は、家に帰ってくると私の下の名前を〝美帆〟から〝河合さん〟呼びに変える。
ここに帰ってこれば、私達は、ただ同じ趣味を持っているというだけの同期だから。