社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
「ごちそうさま」
はっと我にかえると、目の前の真樹が両手を合わせていた。彼の目の前にあったはずの手料理は、綺麗に平らげられている。
「食べるの早すぎ」
大体、いつもそう。真樹が私より後に食べ終わったことなんてたったの一度もない。
「そう? いつもと変わらないでしょ。河合さんの方は、ぼうっと考え事してたし、いつもより遅いみたいだけど」
視線を私の目の前に並ぶ料理に移し、笑っている真樹。
ゆっくり視線をテーブルに落とすと、たしかに私は全くと言っていいほど料理に手をつけていなかった。
「河合さん、話してる時と考えごとしてる時絶対箸の動き止まるよね」
〝不器用だね〟と言わんばかりにニヤリと笑う彼に、またむっとしてしまった私はそっぽを向いた。
彼の言う通り、私は考え事をしていたり、話をしているとつい箸の動きを止めてしまう。二つのことを同時に上手くできないこの不器用さは、子供の頃からずっとだ。
「お風呂、先貰うよ」
そう言った彼を見ることなくこくりと一度だけ頷く。すると、彼は一度部屋に戻ったあとお風呂場に向かった。