社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
こっちの気を知らずに急かしてくる真樹に腹を立てながらも、遅刻はしてはならないと足を進める私。すると、前を歩いている真樹が、何故かこちらに戻ってきた。
「仕方ないな」
私の目の前に立つと、彼は溜め息混じりにそう言って右手を差し出した。
差し出された右手をどうしろというのか。それが理解できず、私が目を丸くしていると、彼はまた更に右手を私の方に近づけてくる。
「手、繋いだ方がまだ楽でしょ?」
「えっ」
「ほら、早く。遅刻だけは勘弁だから」
そう言って笑う彼は、戸惑う私の手を強引に引いて歩き出した───。
「はあ、間に合った」
私の手を引いている彼と、彼の手に引かれながら歩き出した私は、何とか出勤時刻5分前に会社に到着した。
到着し、私達の働く事務所まで移動する途中、何やら痛い視線を感じるなと思っていると。
「いつまで繋いでればいい?」
意地悪な笑みを浮かべた真樹が私の方を振り返った。
真樹や周りの視線が向かう先は同じで、私は恐る恐るその視線をたどっていった。すると、視線の先には、指先を交互に絡めた私と真樹の手。
「……わあっ!ちょ、ちょっと!周りの視線に気づいてたならもっと早く言ってよ!」
ようやくこの痛い視線の理由に気がついた私は、既に視線に気づいていながらもここまで言わずにいた真樹をキッときつく睨んだ。
仲良しカップルを演じなければいけないとはいえ、ここまでする必要はないし、会社に入る前に離してくれればよかったのに。ああ、恥ずかしい。
「寝坊した美帆のことを待って、こうして一緒に通勤してあげたのに、そこまで言っちゃうのか」
酷いな、と付け足して爽やかに笑ってみせた彼は、もう既に〝彼氏モード〟だ。