社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
「わっ、清水……どうしたの。びっくりしたじゃん」
トイレを出てすぐ左手に、壁際にもたれかかっている清水を見つけた。
私が驚いて声を漏らすと、彼はそんな私を見て柔らかく笑った。
「ちょっと、河合に話したいことがあったから」
それより、具合は? と付け足して問いかけてきた彼に、私は「大丈夫」と一言だけ返す。
なんとなく、彼が言った〝話したいこと〟というのが想像できた私は、すぐにでもここから去りたかったが、彼の目がそうはさせなかった。
「あのさ、分かってるかもしれないけど、俺、まだ河合のこと諦めてないよ」
私に目をそらす隙なんて与えないくらい、真っ直ぐに私を捉えていた清水。彼の言葉も、眼差しも、驚くくらい真っ直ぐだった。
ほとんど想像通りの彼の言葉だったはずなのに、あまりにも真っ直ぐすぎる彼に、私は何と答えるべきかが分からなくなって黙り込んだ。
「ごめん。今、そんなこと言われても困るか」
少しの沈黙の後、その沈黙を自ら破った清水は、すこし苦笑いを浮かべて私を見た。
私は、清水から自然に目を逸らし、しばらくして先に歩き出した彼に続いて歩き出す。
一歩、歩き出した途端、ぐらりと揺れた視界。咄嗟に壁に手をついて立ち止まると、私の異変に気付いた清水が私の元に戻ってきた。