社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
「……ムカつく」
「何が?」
「バカ。うるさい。もう、あんたなんて知らないんだから」
ふん、とそっぽを向いた。
こんな子供みたいなことしたって、真樹には何も伝わらないことくらい分かっている。
私が何に苛立っていて、何を言いたいのか。こんな態度をとっていたって、一ミリも伝わらないことは分かっている。
だけど、何を彼に伝えたいのか。それは、自分でも分からなかった。
「河合さん、何。どうしたの」
キッチンカウンター付近に立っていた真樹の足音が、だんだんとこちらに近づいてくる。
真樹は、私の側までやって来ると、隣に腰をかけて私の顔を覗き込んだ。
「うるさい。見ないでよ!バカ!廃人!クソゲーマー!」
三角座りをしている膝に顔をうつ伏せ、真樹に表情を見られないようにしながら悪口を並べる。だけど、真樹は全然怒りはしない。
「なに、本当にどうしたの? 言ってくれないと分からないんだけど」
俺、何かした?
と、いつもと何も変わらない。いや、むしろいつもより優しいトーンで私に声をかける彼は、やっぱり私より大人だ。
私なんか、こんな得体の知れないモヤモヤした感情に振り回されて、真樹に八つ当たりしてしまっている。こんなの、駄々をこねる小学生と何も変わらない。