社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
「おはようございます」
「あ、美帆ちゃん、おはよー」
隣の席の島田さんに、いつもよりワントーンは低い声で挨拶をする。すると、島田さんはいつも通り明るく私に挨拶を返して来た。
「ひょっとして、深川くんと喧嘩でもしちゃった?」
パソコンの電源を付け、カバンを引き出しにしまうと、パソコンのディスプレイに目を向けていたはずな島田さんがこちらを見た。
「どうしてですか?」
一瞬、どきっとした。
それは、単に図星だったからというのもあるけれど、相変わらずの島田さんの観察眼に驚いたのも理由の一つだ。
島田さんは、誰よりも人のことをよく見ている気がする。少し前に、私が原因で真樹と喧嘩をしてしまった時にも、こうしてすぐに気づいたことがある。
「だって、美帆ちゃん、いつもより元気なさそうだもん。深川くんの方はいつもと変わらないみたいだけど、今日は二人とも一緒に出勤してなかったし」
「……ちょっと、昨日言い合いになったくらいです。些細なことですし、喧嘩とかじゃないですよ」
なんとなく、島田さんの言った〝深川くんの方はいつもと変わらない〟という言葉が引っかかる。
また、気にしているのは私だけか。なんて、モヤモヤしてしまうのは一体どうしてなんだろう。