社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
「……あとさ、」
「なに?」
隣に立っている真樹を見上げると彼は珍しく神妙な面持ちで、何だか嫌な予感がした。
「この契約、やめたくなったらそう言ってくれていいから」
「え?」
どくん、と胸が跳ねた。やっぱり、こういう時の嫌な予感ほど当たる。
何一つ変わらない真樹の表情が、今の言葉が冗談でも何でもないことを物語っている。
「他に好きな人できたなら、そっちに行っても良いよってこと」
「好きな人って、何言って……」
〝何言ってんのよ〟と言いかけて、ハッとした。
私が〝リアルの恋愛はもうしないって思ってたのになぁ……〟と言ったことに対してまだ誤解を解けていなかったことを思い出し、私は咄嗟に口を開いた。
「だから、あれは本当に違うんだってば!」
「違う? あんなにはっきり言ってたのに? まぁ、でも、いずれそうはなると思ってたし時間の問題でしょ。この関係は俺から話を持ちかけてるし、言いづらくて我慢させてるなら嫌だと思ってさ」
河合さんのしたいようにすればいいよ、なんて平然と言い放つ彼は、優しいはずなのに冷たい。
こんなの、仮面とはいえこうして今まで恋人として過ごしてきたのに。やっぱりこの程度のものか。彼の中で私は、本当にゲームの為だけに利用しただけの同僚なんだ。