社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
1.社内公認カップルの裏事情
「あら、おはよう。今日も朝からアツいわね」
「仲が良いのはいいけど、朝っぱらからイチャつきすぎ。むさ苦しい」
午前9時過ぎ。私は、勤めている会社の廊下の片隅で一人の男性と二人こそこそ話をしていた。
そんな私と彼の姿を横目に見た同じ部署の人間は、冷やかしの言葉をかけると口角を上げながら通り過ぎて行く。私達は、その冷やかしに満面の笑みを返すとまたお互いの顔を近づけてこそこそと話し出した。
「あと、今日、18時からイベントあるから。ちょっとどっかでそれだけやってから帰るわ。ご飯先に食べててくれていいから」
目の前にいる彼の言葉に、私は「了解」と一言だけ返事をする。
今日は帰りが遅くなると言った、この顔面偏差値の無駄に高い男。彼は、同期の深川真樹。一応、私の彼氏である。三ヶ月前、ひょんな事がきっかけで急接近し、こうして付き合うことになったのだ。
都内に構える、雑貨を中心として取り扱うこの商社の社内一イケメンで、おまけに優秀なエリート営業マン。男女問わず(特に女子には)人気の彼と付き合っていることを公表した時は、女子からの反感はやはり酷かった。しかし、今では「二人が理想のカップルです」「お似合いです」と言われるほどの社内公認カップルである。
「河合。お取り込み中のところ悪いけど、ちょっといいか?」
突然背後から声をかけられ、私と真樹が同時に振り返る。そこには、すらっと背が高く、ハーフのようなはっきりとした顔立ちが特徴的な男性がいた。