社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
「えっ?」
隣の若い男の子から突然声をかけられ、ハッとした。つい、オーバーに振り返ると、彼の方もハッとしたように反応した。
「あ、す、すみません。僕、営業部の茅ヶ崎優(ちがさきすぐる)っていいます」
いきなりごめんなさい、と言って何故か謝りだした彼は、そっと私にメニューを差し出してくる。
「え、茅ヶ崎優……?」
「は、はい!そうです!」
彼が差し出してくれたメニューを受け取るよりも先に彼の名前の方が引っかかってしまって、もう一度確認せずにはいられなかった。
私が夢中になってしているスマホアプリ内の推しキャラと二文字違いなんて、こんなの反応せずにはいられない。
「河合さん??」
つい、ヲタクの血が騒ぎ始めてしまった私のことを覗き込むようにして見てくる彼の顔は、正直推しキャラとは似ても似つかない。ただ間違いなく、どの乙女ゲームにも出てくる癒し系男子の顔面だ。
黒い髪を無造作に整えた綺麗な肌ツヤの彼は、顔のパーツまでも可愛らしくてまるで女の子みたい。
「あの、河合さん……!」
「はっ!ご、ごめん。つい、綺麗なお顔だと思って見ちゃった」
ごめんなさい、ともう一度小さく呟いて謝ると彼は恥ずかしそうにしながらも首をぶんぶん横に振った。