社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
「何様って……紛れもなく美帆の彼氏様ですけど?」
今日からは本当の意味で、と小さく耳元で付け足した彼は、何事もなかったかのように私に背を向け歩き出した。
不覚にも、耳元にかかった彼の吐息にドキッとしてしまった私はコンマ一秒遅れて彼の背中を追いかける。
「今時、乙ゲーでもそんな台詞言わないから!ほんっと、そういう台詞さらっと言っちゃうところとかダサい」
「へー、耳真っ赤にしてそんなこと言われても全く説得力ないな」
「なっ……!赤くないから!見間違いでしょ!」
邪魔で耳にかけていた髪を宙に浮かし、赤くなっているらしい耳を隠した。
隠した耳だけじゃなくて顔までだんだん熱くなって来たのは、今更さっきの出来事を思い出して現実なんだと思い知ったからだと思う。
これからは私達、あの掟のための恋人じゃなくて、本当に好き同士の恋人なんだ。他のみんなと同じ恋人になれたんだ。そう思うと、嬉しくて口角が上がるのを抑えられなくなった。
「河合さん、ニヤニヤしすぎ」
「うるさい!ニヤニヤなんてしてない!」
「いや、してたよ。完全に」
隣で肩を揺らしながら笑う彼は、随分と余裕そうでやっぱりムカつく。
まるで私だけが浮かれてるみたいで悔しい。むっと口をへの字に曲げると、彼はそんな私を見てまた更に肩を震わせた。
「河合さんをこうやって攻略していくのも悪くないな。俺、もしかしたらギャルゲーのセンスあるかもしれない」
「面白がらないでよね!大体、あんたみたいなプレイヤーに絶対攻略されるもんですか!」
「おー、言うね。どっちが先に攻略できるかな」
「乙ゲーマーなめないでよね」
余裕の笑みをずっと浮かべていた真樹から、ふんっとそっぽを向いた私は、何だかんだ口角を下げきれないままで給湯室へと向かった。