【短】恋がはじまるそのときは、
「それ、分かって聞いてる?」
って、すごい嫌な顔をされた。
だからわたしは「ごめん」ってクスリと笑う。
「みこ、すっげーいじわる。俺が今まで誰かを好きになったことないって知ってるくせに」
優にぃは少しにじんできた汗を乾かすようにワイシャツをパタパタさせると、わたしをぐーっと睨むように見る。
「あはっ、こわーい」
それに笑ってみせると、もっと睨まれた。
……そう、優にぃは、この23年間、誰かと恋をしたことがないらしい。
恋はおろか、世間一般でいう好きとか、愛してるとか、そんな気持ちが全然分からないんだって。