だからそれは、愛じゃない。
「ねぇ、朱里」
やっと発してくれた鶴橋くんの声は、いつも聞く声じゃなく、とてもとても低い声だった。
「今日、ご飯食べに和谷くん来るの??」
「うん………」
「いつも和谷くん来たらご飯食べて何するの??」
「ご飯食べた後は家族皆で話したり、祐樹が私の部屋でくつろいだり………」
「俺さ、和谷くんに対してかなり我慢してるんだよね。普通逆だよね?? 普通は和谷くんが、俺に遠慮して我慢する立場だよね?? 俺は朝の登校も許す挙句に、夜、朱里の部屋に和谷くんが入るのも我慢しなきゃいけないの?」
祐樹は、『一番に考えなきゃいけないのは朱里の気持ちだ。朱里がどうしたいか、だと、俺は思う』と言ってくれた。
でも鶴橋くんを見てたら、私の気持ちを優先する事がやっぱり私のワガママに思えてくる。
………鶴橋くんも祐樹との朝の登校を我慢してくれてるんだ。
私の気持ちを一番に優先させてたら、鶴橋くんが傷ついてしまう。
祐樹には何でも言えるのに、鶴橋くんにはそれができない。
………鶴橋くんに嫌われたくない。
生意気な事を言ってフられたらどうしようと、怖くて怖くてたまらない。