【中編】彼女様は甘い味。
その後ずさるあたしの背中にはとうとう壁が触れて、
もう逃げ場はなくなってしまいどうすることも出来なくなってしまいました。
…息が詰まります。
あたし今…呼吸してるんでしょうか?
あたし今、何をしたいんでしょうか?
どうしていいかも分かりません。
どうしたいのかも分かりません。
逃げ場を失ったあたしは少しばかり横にずれて…
けれどそれは先輩の両腕で阻まれてしまう。
あたしの真横に置かれた先輩の細くも太くもない長い腕、
そして奏音は完全に動けなくなってしまった。…まるで囚われたウサギのように。
「お前…言ったよなぁ?」
蓮先輩の澄んだ青の瞳。
思わず手を伸ばして触れてしまいたくなる赤い髪。
そしてあたしの…
高鳴る胸。
“トクン”と音を立てて、あたしの中の何かが静かに疼き始めたような…
「…何を、言った…のですか?」
奏音は震える声を精一杯に振り絞って、小さくそう言った。
そしてその瞳はこれでもかというほどの潤いを。
すると…
蓮二はグッと奏音の頬を両手で挟むようにしてから自分の顔を近付けた。
それはそれはとてつもない近距離で、
「選んだのはお前だろーが!!」
…え?
次の言葉はいつもの先輩の怒鳴り声で、
この部屋の緊迫した空気は一瞬にして消え去ってしまいました。