【中編】彼女様は甘い味。
ふとその声のする“後ろ”を見てみると…
「あ、あれ…?」
気が付いて周りをキョロキョロと見渡してみると、そのあたしの目に映る景色の一つ一つがまるで早送りの様に過ぎ去っていきまして、
あたし…
「浮いてますけどっ!!」
これでもかっていうことを上回るくらいのこれでもかって感じに見開いた目で奏音は言うと、自分の目の前に見える蓮二の顔を覗き込んだ。
「…あったりめぇだろーがっ」
歯を見せてニッと笑ってチラリあたしを見た先輩。
何だかそんな先輩の姿に…心が激しく波打ったような、そんな感覚がしてしまいました。
「ああっ!…降ろして下さいー」
少しばかり火照った気持になったあたしは、
ブンブンと顔を横に振ってから現実を見つめ直してそう言いました。
だ、だってこんなの…
こんなのこんなの!良くないじゃないですかぁーっ!!
「黙ってろよっ、アホ女!」
アホ、女。
最近少しばかり優しかった先輩に自惚れてしまったのか…何なのか、
やっぱり先輩の性格自体があまり変化をしていないんだと。虚しくもそんなことを一人で勝手に考えだす奏音。
先輩は何故かあたしを抱き抱えたまま走りだしてしまったようでして。
どんどん景色は違う場所に変わってしまっていて、きっとあたしが一人で良からぬことを考えている間に植物園を出てしまったのでしょう。
もう少しちゃんと見て回りたかったのに。
と、思いつつも…
先輩が今から向かう場所は、少しずつですが。
景色で分かってしまいました。
「蓮、先輩…ここって」
薄く口を開き、目を少しだけ大きく開けて。