【中編】彼女様は甘い味。
すると先輩は目を瞑って。
でもその視線は空を見上げたまま。
「センパ…っ」
不思議に思い、聞いてみようとしたその時。
薄らと開いた蓮先輩の口元が小さく開いて、その開いた口からは柔らかいメロディーが零れてきました。
…歌、ですか?
そしてその歌を聴いた瞬間。
すぐに分かりました。
『例えば天使と悪魔が恋に堕ちたとして…』
あの時…蓮先輩が書いていた、歌?
低くも甘い。色っぽい先輩の声は…時々擦れてハスキーに聞こえて。聴いているあたし自身の心を奪い去ってしまうようでした。
歌う先輩の姿をジーッと見つめ。
思うのです。
もしかしたら先輩はいつもこうやってここで一人、歌を歌っていたんじゃないか…なんて。
だから蓮先輩はこの場所が好きなのではないか…と。
歌い終わり先輩の大きな目が再び開く。
「一番最初。」
その大きな青い瞳はあたしを見ていてそう言いました。
「さい…しょ?」
あたしがそう言うと先輩は優しく笑って小さく縦に頷くと、『最初にお前に聴かせたかった』と言った。
「って言っても、歌だけになっちまったけどな」
その歌の結末はこうです。
突然、運命の悪戯で出逢ってしまった悪魔と天使。
出逢う筈のない二人は、少しずつだが互いに恋に堕ちていく。