【中編】彼女様は甘い味。
揺れる視界の中で必死にあたしはそう言った。
…いつだってあたしのヒーローだった隼人くんを、
一度でも、一瞬でも“怖い”と思ったことなんてなかったのに…。
今は怖い。です…
「俺がどれだけ…、良い人でいたと思ってるの?」
笑って…る、けど。
何だかその瞳の奥にある違うものに引き込まれてしまいそうで、
このままだと…
…だなんて、思ってしまっていた奏音。
「隼人くん…っ!止めましょう?…こんなのおかし…っ!!」
ドサッと聞こえる音、
回転する視界、
さっきまでは見えなかった満月の月が、真っ直ぐ目の前に見える…
そして瞳から耳の方へ流れ落ちる涙。
…悲しそうな、隼人の表情。
「…離して、下さい」
地面に倒れた奏音に馬乗りになった形で見下ろす姿。
「………んだ…っ、」
うまく、聞き取れない…
「ずっと…、好きだったんだ」
聞こえた。…聞こえました。