【中編】彼女様は甘い味。




今までそんなこと、まったく知らなければ分かりもしなかった…


…どうして?




「…っ?」


思わず奏音も声を失って、丸い満月のような瞳をいっぱいに見開いていた。



…好き、?


「桜木が…、好きだよ…

…ずっとずっと前から」



止めて…?

止めてください…


そんな哀しそうな声、表情…しないで下さい…っ、


奏音の瞳からはまた大粒の涙。



「…う…っ…、」


「…もう“良い人”でいるのは止めるよ…

本気だから、俺」


真っ直ぐ目を見てそう言われて、なにも言えなくなってしまって…



隼人くんは、自分を偽ってあたしの側に居たと言うんですか…?


全ては。嘘ですか?



溢れる涙を抑えたくて閉じた瞼、

少しの時間が経ったころ、そっと目を開く…



気が付けばもうそこには隼人くんはいない、

…満月の光に照らされてる自分一人の影を見て、また涙が出てしまう。



恋は、人を変えてしまうんだ…


甘い恋なんてあたしには…



できっこないんです。




「…せん、ぱい…っ」

やっぱり呼んでしまうのはこの人の名で、


自分の中の自分の気持ちがぐちゃぐちゃに、壊れてしまうんだ。



綺麗な蜂蜜色の奏音の髪は土で汚れて、肘の擦り傷は少し傷んで。



…でも一番の痛みは、


心、だった。



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