二人だけの秘密
「へぇ」

僕の返事を聞いて、工藤友梨が目を細めて笑った。

「悪い、栗原。お前の席、借りてたわ」

木村裕也は机から飛び降り、僕の肩にポンと手を乗せた。そして、自分の席に戻った。

木村裕也の席は、僕の前の席だった。入学式のとき空席だったあの席は、木村裕也の席だったらしい。

「裕ちゃん、ノート」

美希さんが自分のカバンからノートを取り出し、僕を通り過ぎて木村裕也の席にノートを届けた。

「ありがとう」

裕也が、美希さんのノートを笑顔で受け取る。

「あ〜あ、私もこのクラスがよかったなぁ。幼馴染なのに、私だけ違うクラスなんてなんだか二人に嫌われた気分だよ」

美希が裕也にノートを渡すのを見て、友梨がうらやましいそうな顔をした。

ーーーーーー幼馴染ーーーーーー。

美希さんと裕也と友梨の三人は、どうやら幼馴染らしい。

他愛のない友梨の発言が、僕の頭に岩石が落ちたような衝撃を与えた。

「それに同じ幼馴染の私よりも、美希は裕也との方が昔から仲がいいからね」

「友梨、そんなことないから。裕ちゃんとはただの友だちだし、友梨と一緒の関係だよ」

口では美希さんは恋愛感情を否定していたが、顔はリンゴのように真っ赤になっていた。しかも色白肌のせいもあってか、顔が赤いのが目立つ。

美希さんはちらちらとと、裕也の方に視線を向ける。裕也は一生懸命、美希さんのノートを写していた。

「ふーん、そうなんだ」

「そ、そうよ。そんなことより裕ちゃん、ノート写し終えたら返してよね。友梨も、いきなり変なこと言わないで」

美希さんは怒ったような口調だったが、表情は楽しそうに笑っているように感じた。

僕と話しているときよりも、ずっと楽しそうに感じる。仕事のストレスを、友達と発散しているのだろう。

「美希さん………」

僕の切ない声は、今の美希さんの耳には届かなかった。
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