二人だけの秘密
ーーーーーー家にいてずっと、僕の好きな女子アナを見ていたい。

そんなことを思っていると、

「女子アナばっかり見てんと、着替えたら忘れ物ないかチェックしろ。入学式早々遅刻なんかしたら、許さへんからな」

僕の気持ちを悟ったかのように、朝から口うるさい父親がまた僕を怒鳴る。

父は既に白いワイシャツを着ており、その上からダークスーツを身にまとっている。春らしい桜色のネクタイをキュッと締め、黒いズボンを履いている。

ーーーーーー父は生真面目なサラリマーンだ。社会に出て、地方の銀行で勤務している。母も同じく、地方の銀行で勤務している。そんな二人の間に、僕のような障害者が産まれたから心配しているのだろう。

「………」

一言文句を言いたいのが本音だったが、僕は歯を食いしばって我慢した。

父と母のおかげでこの大きな家で暮らせていることは事実だし、文句を言ったところで怒られることは分かっていた。

「…………」

僕はちらりとテレビ画面を見た後、家から出ようとする。

テレビ画面に映っていたのは僕の好きな女性アナウンサーが、最近問題になっているインターネット上の匿名掲示板サイトのことを報道していた。


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