はじめて知った世界の色は
右手を伸ばして、頬に触れようとした時――。
緑斗が急に目を開いて、私は慌てて手を引っ込めようとしたけど体勢を崩してそのまま尻餅。
「え……す、翠ちゃん大丈夫!?」
「あはは、大丈夫大丈夫」
まさかあのタイミングで起きるとは思わなかった。
緑斗に気づかれなかったのが不幸中の幸いというか、触ろうとしてたなんて言えるわけないし。
「いつからいたの?」
「うーん、今だよ」
嘘。本当は緑斗の寝顔をけっこうじっくり見てた。
昼休みが終わるまであと15分。私は持ってきた購買のパンを食べてそれをお茶で流し込む。
「好きだよね、そのクリームパン」
緑斗が顎肘をつきながら私の食べてる姿を見てくるから時々パンが喉に詰まりそうになってしまう。
「っていうかもう少しで食べ終わるからあっち向いててくれない?」
「えー。わざわざパンを持ってきたくせに俺に見るなって言うの?」
「うん。言う」
「その前に口にクリームついてる」
「え、どこ?」
すると緑斗の長い指先が私の口を指さして、普通だったらクリームに届いている距離。
「ここ」
ドキッとする声。
緑斗の瞳はまるでヒマワリが咲いているような色をしていて、ちょっと動けなくなる。
それでも緑斗が冷静にニコリと笑うから私はゴシゴシと口を拭いて、こんな時に指でクリームを拭えるぐらいの女子力があったらと本気で思う。