はじめて知った世界の色は
無駄にストレッチなんてしてみたりして。緑斗も緑斗で部屋の片隅に移動していて私が「いいよ」と合図をするとお母さんはドアを開けた。
「洗濯物ここに置いておくね」
「あーうん!ありがとう」
さっきまでふて腐れていたはずなのに私の顔はバレバレな作り笑顔。
「まだ床に布団なんて敷いてるの?」
「う、うん。なんかこのほうが落ち着くっていうか、ベッドで寝ると身体が痛い時もあるからさ」
私はいつからこんなに饒舌になったんだろうか。緑斗のお喋りが移ったのかもしれない。
お母さんは別に疑うことなくドアノブに手をかけて、安心したのも束の間にもう一度くるりと振り向いた。
「あ、そういえば職場の同僚に聞いた話なんだけどね、引っ越し先で〝でた〟んだって」
私の理解力がないのかすぐに反応できない。
「でたってなにが?ネズミ?」
すると私に合わせるように緑斗が「タヌキじゃない?」と呟く。
いやいや、山奥じゃないんだからタヌキはないでしょ。むしろタヌキがいたら普通に写メ撮ってみんなに見せちゃうレベルだよ。
「もう、幽霊よ、幽霊!」
お母さんが呆れたようにそう言って、私はまたベッドから落ちそうになった。