はじめて知った世界の色は


「私は仲良しだって思ってたけどどうかな」

「……?」

「私はこう見えてけっこう突っ走っちゃうタイプだから、弟の気持ちなんて考えずに強引に距離を縮めようとしてた気もするんだよね」

それはまるで過去のことを振り返るように。

そして、私に向けてじゃなくて自分自身に問いかけるように。


「だから今考えると弟が私のことをどう思ってたか分からないの。迷惑だったかもしれないし、嫌われてたかもしれないし、同じ屋根の下にいたのに後悔ばかり」

「………」

「もっと色々なことを話せば良かったって最近はそんなことを思うけどダメだね。大人になっても肝心なことはなにも言えずにいる」

はは、と先生が悲しそうに笑うから私はなにも言えなくなった。


「あ、ご、ごめんね。なんだかしんみりとしちゃって」

「いえ……」


会話が途切れたところで由実がテーブルに戻ってきた。その頃にはすでに昼休みが残り5分になっていて先生は慌てて職員室に戻る準備をはじめた。


「なんだか高校生の時を思い出して楽しかった。ありがとう」

先生の表情はまた可愛くえくぼを見せる顔に戻っていた。


今日が最後なんてちょっと残念かも。もう少し話してみたかったのに。

すると先生は「あ……」と図書室を出る寸前に思い出したようにこっちを振り向いた。


「そういえば来月の文化祭にまた遊びにこようと思ってるの。今度は先生じゃなくて普通のお客さんとしてだけど。もし見かけたら声をかけてね」

そう言い残して先生は去っていった。

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