はじめて知った世界の色は


……文化祭か。

そういえば10月の第一土曜日から二日間にかけてやることをすっかり忘れていた。

そろそろ出し物を決めるって話してた気がするし、あんまり手間のかかるものじゃないといいなあ。


「あれ、なんかいい匂いがする」

その日の夕方。学校が終わってすぐに家に帰って緑斗を確認すると今朝と同じ体勢で寝ていた。

「おかえり」と笑顔は作れてるものの、まだ顔は赤いから熱は下がってなさそうだ。


「え?匂い?」

私は制服をハンガーにかけながらクンクンと身体を嗅いでみた。

もしかして商店街のコロッケの匂いかな?緑斗の嗅覚は本当に犬並みだから。


「なんか石鹸みたいな……」

「あー、先生の匂いかな?」

「先生?」

「ほら、教育実習で来てる先生の話したでしょ?今日その先生とお昼ご飯を食べたんだ」

あの匂いが少しでも私に移ってたなんてラッキーだな。私も好きな匂いだからどんな商品を使ってるのか詳しく聞けばよかった。

「緑斗は美人を拝めなくて残念だったね」とさっきの言葉に付け加えると「あはは」と笑ってた。

そして部屋着に着替えた私は勢いよくベッドに座る。
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