はじめて知った世界の色は


「なんか文化祭に来るかもって言ってたし、その時に会えるかもよ。名前はね……」

と、その時。コンコンとドアが2回ノックされた。


「翠ー?」

「え、わ、お父さん?」

油断して大声で喋ってたからもしかして怪しまれたかも……?


「冷蔵庫の製氷機のボタンONにしてなくて氷が全然ないって母さん怒ってるぞ」

「え、あ……そっか。忘れてた!」

「リビングに降りてちょっと確認しにきなさい」

ドア越しでのお父さんとの会話を終えて私は慌てて立ち上がった。


「ごめん。お母さんに謝ってくる」

「俺のせいでなんかごめん」

「なに言ってんの。氷は私が勝手に用意したことなんだからさ」


いつもどおりの何気ない緑斗とのやり取り。だから私は気づけなかったんだ。

私自身も移った匂いに気づかなかったのに、その心地よくてクラクラするような匂いを緑斗が敏感に感じ取った意味さえも。
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