はじめて知った世界の色は
「ふーん。そっか」
緑斗があまりにあっさりと流すから私のほうがキョトンとした顔をしてしまっている。
本棚に置いてあるぬいぐるみを見て「これはアザラシなの?アシカなの?」なんて言いながら完全にさっきの話はスルー。
なんなの、本当に。
人のものを勝手に見たり漢字を教えてなんて、
どうでもいいことは気になるくせに。
「聞かないなんて、ちょっとズルい」
聞かれたって教えないけど。
「そんな風に言う翠ちゃんのほうがズルい」
緑斗はニコリと優しい顔で微笑んだ。
本当にああ言えばこういうヤツで、私の言った言葉をおうむ返しするのが癖。
それでも誰にも開かないと決めた心の扉に手を伸ばしたくなったのは何故なんだろう。
なにも聞かれないだけで、ここにいることを許された気持ちになったのはなんでなの。
「とりあえず早起きしちゃったし、もう少ししたら翠ちゃんの朝ごはんでも買いに行く?」
もう完全に緑斗のペース。
言われるがまま久しぶりに太陽の下を歩いて、コンビニで買った梅のおにぎりがすごく美味しく感じた。