はじめて知った世界の色は
たしかに放課後の教室はなんだか昼間とは違う雰囲気でドキドキするけど、別に学校にふたりきりというわけじゃないし。
「翠ちゃん、けっこう器用だね」
私が筆で色を塗るたびに緑斗は目で追ってくる。
「ちょっと見ないで。手震えちゃうから」
「あはは、可愛い」
「今そういうのいらないから」
由実が書いてくれた看板を台無しにするわけにいかないから、これは本気で責任重大な仕事だよ。
由実が借りてきてくれた美術部の細さが違う筆を使い分けて、指定されてる色を間違えないように塗っていく。
「俺もなにか手伝えたら良かったんだけどね」
「あ!はみ出た!」
「どこ?」
ふたりして同じ箇所を覗きこむと、目の前に緑斗の顔があってその距離は今までで一番近いかもしれない。
ドキドキと静かな教室で私の鼓動が速くなる。
……ヤバい。心臓の音が緑斗に聞こえちゃう。
「っていうか翠ちゃんさ……」
「な、なに?」
緑斗の綺麗な瞳に吸い込まれてしまいそう。手も足も首も動かなくて緑斗との距離が近いまま。
「ぷっ、顔にもペンキついてるよ」
「……へ?」
慌ててゴシゴシと拭いたら余計に広がったらしくて緑斗はさらに笑ってくる。
「なんかオカメインコみたいになってる」
ああ、泣きたい……。しかもこのペンキ雨でも滲まないように油性だったはず。ますます泣きたい。