はじめて知った世界の色は


すると緑斗はわざと私の頬っぺたを触る素振りをする。なぞるように上下に3回。

だけどもちろん指先は私の頬に触れることはない。

それをお互いに分かってるはずなのに、やっぱりどうしても手を伸ばしてしまう瞬間がある。


「俺、翠ちゃんのそういうドジなところ良いと思う」

優しいくせに曖昧な言い方。

だから私はムッとして緑斗の頬っぺたを真似して触るふり。


「良いと思うって、どういう意味?」

普通ならもっと違う表現の仕方があったはず。
それなのに緑斗はあえて〝それ〟を避けたような気がした。


「良いってことはつまり……」

「つまり?」

緑斗の唇が〝す〟の形になったけど、それはすぐに消えてしまった。


「つまり、翠ちゃんの魅力のひとつってこと」

別にライクの意味でいいのに、緑斗は絶対に私がほしい言葉を言ってはくれない。

それは緑斗が幽霊だからなのか。
それともその心の中に誰かがいるのか。

そんなのは私に分かるはずがない。


近いけれど、緑斗はすごく遠い人。

もし私たちの関係を表すなら、きっと儚くて一瞬で消えてしまう花火みたいな関係なのかもしれない。

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