はじめて知った世界の色は
着いたのはいつもの公園だった。
蚊に刺されて大変だったことが嘘のように10月の公園には心地いい鈴虫の鳴き声が響いていた。
ベンチに座って、すぐに口を開いたのは緑斗のほう。
「ごめんね。記憶が戻ってること秘密にしてて」
私は静かに首を横に振った。
本当は気づいていたけど、なんて言う暇もなく「気づかないふりをしてくれてありがとね」と緑斗が泣きそうな顔で笑うから私はただ唇を噛み締めるだけ。
「翠ちゃんのお姉ちゃんが家に帰ってきたでしょ?あの時から実は記憶が戻ってた」
「うん」
「いるんだよね、俺にも」
「うん」
今は相づちをすることで精いっぱい。聞き逃さないように受け止めるだけで精いっぱい。
「俺、好きだったんだよ。姉さんのこと」
……ドクンと心臓が跳ねる。
うん、と相づちできなかったのは私の事情。
ちょっといま声を出したら〝気づかれる〟