はじめて知った世界の色は


着いたのはいつもの公園だった。

蚊に刺されて大変だったことが嘘のように10月の公園には心地いい鈴虫の鳴き声が響いていた。

ベンチに座って、すぐに口を開いたのは緑斗のほう。


「ごめんね。記憶が戻ってること秘密にしてて」

私は静かに首を横に振った。

本当は気づいていたけど、なんて言う暇もなく「気づかないふりをしてくれてありがとね」と緑斗が泣きそうな顔で笑うから私はただ唇を噛み締めるだけ。


「翠ちゃんのお姉ちゃんが家に帰ってきたでしょ?あの時から実は記憶が戻ってた」

「うん」

「いるんだよね、俺にも」

「うん」

今は相づちをすることで精いっぱい。聞き逃さないように受け止めるだけで精いっぱい。



「俺、好きだったんだよ。姉さんのこと」

……ドクンと心臓が跳ねる。

うん、と相づちできなかったのは私の事情。
ちょっといま声を出したら〝気づかれる〟
< 149 / 180 >

この作品をシェア

pagetop