はじめて知った世界の色は


「翠……?」

その声にドキッと心臓が跳ねる。


「なんだか話し声が聞こえるけど誰かいるの?」

それはお母さんだった。

両親の寝室は私の部屋とは反対にあって、西側は道路沿いだから外からの音がうるさくてほとんど私の部屋の音は聞こえない。

しかも階段を登って右側には私の部屋しかないから用がなければお母さんたちが前を通ることもないし。


「なんだかリビングにいたら翠の声が聞こえてきたから……」

あ、そういえば忘れてたけどリビングはこの真下だった。


「誰もいないよ。……いるわけないでしょ」

久しぶりに交わすお母さんとの会話。

さっきまで緑斗と普通に話してたのに急に喉が詰まったみたいに声を出すのが下手くそになる。


「……そうよね。分かった」

深く聞かれるわけでもなく、お母さんがそのまま私の部屋を離れていく足音が聞こえた。


チクリチクリと胸が針で刺されてるみたいに痛い。

いつもなら落ち込んだ時は膝を抱えてひとりで気持ちが収まるまでぼーっとするだけ。でも今は……。


「気を付けなきゃね。話すとき」

そう、今はこの狭い部屋で私はひとりじゃない。
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