はじめて知った世界の色は


枯れ果てていた私の心のタンクを緑斗がいっぱいにしてくれた。それはもう溢れるぐらい。

そのおかげで私はここにいる。


毎日楽しいし、毎日満たされてる。

それでも私は緑斗ことを探してしまう。


きみとしたかったことが、まだたくさんあった。

きみとじゃなきゃできないことが、たくさんたくさん浮かんでくる。


私はもうひとりじゃない。家族がいて友達がいて、これから自分で切り開いていく未来がある。

でも、そこに緑斗がいないと意味がないのだ。


顔が見たい、声が聞きたい。

叶うなら強く抱きしめて、その温度に触れてみたかった。


言ってはいけないと心の奥に閉まった気持ちが溢れてくる。


本当はずっと言ってしまいたかった。

なによりも誰よりもきみが大切だって。

私は、私はきみのことが……。



「あの、イルカショーってやってますか?」

その声にハッとすると、いつの間にか館内は暗くなっていて営業が終わる時間になっていた。

……私、水槽の前で何時間いたんだろう。

そんなことを思いながら涙を拭って私は笑顔で振り返る。



「すいません。今日のショーはもう……」

その言葉の続きが止まった。
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