はじめて知った世界の色は
ドクンドクンと心臓がうるさい。
私は幻でも見ているのだろうか。目の前の現実に頭が追いつかなくて息をするのも忘れていた。
そんな私を諭すように、
「翠ちゃん」
久しぶりに聞く呼び方。
まさか、そんなわけない。
考えすぎて私は夢を見てるだけだ。
そう頭で繰り返しながらも、私は小さくその名前を呼んだ。
「………緑、斗?」
そこにいたのは髪の毛が少し伸びて大人っぽくなった緑斗の姿。ニコリと笑う口元や私をまっすぐ見つめる視線はなにも変わらない。
だけど、ひとつだけ。
ひとつだけ大きく違うことは緑斗の足元には水槽から溢れる光によってできた影があって、身体は透明じゃない。
「……な、なんで……」
足が震える。
やっぱり私は夢を見てるんだ。
私が緑斗のことばかりを考えてるから心配で夢の中で顔を見せてくれたんでしょ?
ぐるぐると夢の狭間で揺れながら、それでも緑斗は少しずつ私に近づいてきた。
そしてもう一度私の名前を呼ぶ。
「翠ちゃん」
その足は私の前で止まって、ふわりと感じた心地いい匂いは夢でもなんでもなく緑斗のもの。