はじめて知った世界の色は
なにも知らないし、なにも聞かないよって顔。
緑斗はのほほんとしてるように見えてすごく頭の回転が早い人だと思う。
瞬時に色々なことを悟って暗い雰囲気にしないようにしてくれている。
「改めて言わなくても分かってると思うんだけど、俺の声は他の人に聞こえないから話してると翠ちゃんが独り言を言ってる感じになっちゃうんだよね」
だからほら。こうして話を別の方向に反らしてくれる。
「じゃあ、私めっちゃヤバい人じゃん」
「はは、うん。ごめんね」
緑斗の笑顔は無邪気で嫌味がない。
「幽霊なのに本当に表情豊かだよね」
「あ、今のはちょっとトゲがある言い方だなあ」
「褒めたんだよ、一応」
うん。今のは褒めた。羨ましいなっていう願望と一緒に。
だって私はそんな風に笑えない。
笑わないんじゃなくて、笑えない。
だからこの狭い部屋だけが私の居場所。それが私の世界であり、自分を守れる唯一の空間だから。