はじめて知った世界の色は
と、その時。フーッと優しい風が頬に当たった。
周りを見ても今日は無風で木々は一切揺れてない。それなのに確かに今、風のようなものを感じた。
私がキョロキョロとしているとクスッという笑みと一緒に再び風。横を見ると緑斗が優しい顔で笑っていた。
「今のって……」
「うん。俺」
緑斗が軽く息を吐くと、やっぱり私の前髪が揺れる。緑斗は常に透明で話はできるけど触れることはできない。
でも今確かに私は緑斗を〝感じる〟ことができた。
「……そんなこと、できるんだ」
ビックリしすぎて言葉が上手く出てこない。
「うん。息を吹きかけると風を起こせるみたいなんだ。だから綿毛を空に飛ばしたり、風鈴を鳴らしたり、誕生日のロウソクを消したり、俺に出来るのはこれぐらいしかないんだけどね」
考えれば色々な使い方ができそうだけど、緑斗が提案するものはどれも可愛い。
さっきまで離れていきそうだった心が戻ってくる感覚がした。
「あとは翠ちゃんがボーッとしてたらこうすることもできるかな」
「……っ!」
緑斗はそう言って私の耳に息を吹きかける。
「ちょ、ちょっとやめて。くすぐったい」
「くすぐったいの苦手なんだ」
「あんまりからかうと怒るからね」
「もう怒ってるくせに」
空には輝く無数の星。掴めるはずがないのに緑斗は手を伸ばして、そのたびに緑色のピアスがキラリと光る。
夜のさんぽも悪くない。
不思議とそんな風に思えた。