はじめて知った世界の色は


と、その時。フーッと優しい風が頬に当たった。

周りを見ても今日は無風で木々は一切揺れてない。それなのに確かに今、風のようなものを感じた。

私がキョロキョロとしているとクスッという笑みと一緒に再び風。横を見ると緑斗が優しい顔で笑っていた。


「今のって……」

「うん。俺」

緑斗が軽く息を吐くと、やっぱり私の前髪が揺れる。緑斗は常に透明で話はできるけど触れることはできない。

でも今確かに私は緑斗を〝感じる〟ことができた。


「……そんなこと、できるんだ」

ビックリしすぎて言葉が上手く出てこない。


「うん。息を吹きかけると風を起こせるみたいなんだ。だから綿毛を空に飛ばしたり、風鈴を鳴らしたり、誕生日のロウソクを消したり、俺に出来るのはこれぐらいしかないんだけどね」


考えれば色々な使い方ができそうだけど、緑斗が提案するものはどれも可愛い。

さっきまで離れていきそうだった心が戻ってくる感覚がした。


「あとは翠ちゃんがボーッとしてたらこうすることもできるかな」

「……っ!」

緑斗はそう言って私の耳に息を吹きかける。


「ちょ、ちょっとやめて。くすぐったい」

「くすぐったいの苦手なんだ」

「あんまりからかうと怒るからね」

「もう怒ってるくせに」

空には輝く無数の星。掴めるはずがないのに緑斗は手を伸ばして、そのたびに緑色のピアスがキラリと光る。

夜のさんぽも悪くない。

不思議とそんな風に思えた。

< 24 / 180 >

この作品をシェア

pagetop