はじめて知った世界の色は
どうか見過ごしてほしい。
見なかったことにしてほしい。
それなのに、再び私に問いかける声。
「……茅野さん、だよね?」
この子の名前は森川由実。
目立つグループが複数存在する中で森川さんは大人しいグループに所属している。
黒髪でメガネをかけていて、確か図書委員だったはず。
学校で話したこともないし、接点も関わりもなかったけどクラスメイトというだけで私には恐怖しかない。
だって森川は〝あの日々〟を知っている。
私が学校でどんなことを言われて、どんなことをされてきたのかを……。
「か、茅野さん」
ザッと足元の雑草が踏まれて森川さんが一歩前に出る。でも私は二歩下がって絶対にその距離を縮めさせなかった。
すると森川さんはメガネの奥にある瞳で私をまっすぐに見つめる。
「……実は茅野さんが休んでる間の授業のノート、全部写してあるの。まさかこんな場所で会えると思ってなかったから証明することもできないんだけど……」
別に友達でもなかった森川さんがなんでそんなことをするんだろう。
ああ、そういえば森川さんって頭が良いから先生に好かれてたっけ。
私のノートを取るように先生に頼まれた?それともそうすれば先生からの好感度でもアップするの?
……ダメだ。学校という場所が関わると私の思考はこんなにも黒く染まってしまう。