はじめて知った世界の色は
キリキリと胃が痛い。
まるで毎日登校中に感じていた胃液が上がってくる感覚。
逃げ出したい。いや、逃げてしまえばいいんだ。
エメラルドは引き渡したし、もう私の用は終わった。走って帰れば10分で家に戻れるし、また私の小さな世界に籠って好きなことだけを考えればいい。
そしたらきっと傷つかない。
そしたはきっと苦しくない。
「か、茅野さん、あのね……」
森川さんが再び口を開いたところで私の足は一歩、また一歩と後ろに下がる。
森川さんとの距離が離れていく中で、頬に感じたのは優しい風。
水面は穏やかで草木も揺れてないのに、私にだけ吹いているその風は隣の緑斗の口の動きに合わせて通りすぎる。
……今ふざけてる場合じゃないのになにをしてるんだか。
それでもフーッフーッと緑斗が息を吐くたびに〝落ち着いて〟と言われてるようで……。
気づけば後退りする私の足は止まっていた。
「茅野さん、ごめんなさい……!」
その瞬間、聞こえてきた声。
何故か森川さんは私に向かって深く頭を下げていた。