はじめて知った世界の色は
「私はなんとか地元から遠い高校を選んで、あの日々から解放された。でもいじめが今も続いていたら私は自分から死ぬことを選んでいたかもしれない」
「………」
「だから茅野さんにも私のようにひどくなってほしくなかったから……。それで先生に相談したの。本当にごめんなさい……っ」
森川さんはいじめられる毎日からは逃れられたけど、それでも心に負った傷は癒えてないんだなって分かる。
私がされていた時に森川さんも自分と重ねて、同じように苦しかったんだと思う。
「もういいよ」
「え……?」
「もう謝らなくていいから泣かないで」
遠ざけたはずの距離を一歩前に縮めたのは私。
私も傷跡が癒えたわけじゃないし、思い出すだけで心臓が痛くなる。
だから逃げた。
逃げたけど、本当は逃げたくない気持ちのほうが強かった。
負けたくなかった。でも私は弱かったから。
今は少しでも強くなれるように学校から離れて、そんな気持ちが離れていかないように留めている最中だ。
「ありがとう。森川さん。私のために先生に言ってくれて」
まだたくさん、たくさん受け入れられないことがある中で、ひとつだけ受け入れることができて、それを許すことができて。
そしたら少しだけ、ほんの少しだけ強くなれた気がした。
「約束はできないけど、もし私が学校に行ったら。行けるようになったら……ノート、私にちょうだいね」
きっとまだ笑顔は作れない。
それでも表情は固くない。
「茅野さんっ……。うん。分かった。いつかのために明日も明後日も茅野さんへのノートを写すから」
森川さんがまた泣いて。でも腕の中のエメラルドは「ニャアア」と元気に鳴いてたから暗い顔をしないで森川さんと別れることができた。