はじめて知った世界の色は


森川さんとエメラルドがいなくなった河川敷ではいつの間にか夕暮れになっていて、水面の色もオレンジ色になっていた。


「頑張ったね」

今までずっと黙っていたくせに、隣で感じる緑斗の声。


「盗み聞きなんて、ありえない」

「えー今さらそんなこと言う?」

嘘。

緑斗がいたから私は森川さんの本音を知ることができた。あの時、緑斗が止めてくれなかったから私は確実に逃げていたと思うから。


「頭を撫でてあげたいけどやっぱりダメだなあ」

緑斗はそう言って私の頭を撫でる仕草だけをした。

その感触や温もりは感じない。触られているはずなのにその指先は透明だ。


「エメラルドとさよならしたのはちょっと寂しいけど、それでも優しそうな飼い主の人でホッとしたよ」

緑斗はこんな時でさえ、なにも聞かない。

いつもなら安心するのに今は少しもどかしい。


「聞かないなんて……ありえない」

だからいつもの私じゃない言葉が口を滑って出てきてしまった。

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