はじめて知った世界の色は
「でも翠ちゃんが学校に行ってない間もちゃんと勉強してることを俺は知ってるよ?」
机に置かれた教科書とノートに挟まってるふせん。本当に緑斗は見てないようでよく見ている。
「捨てたつもりになって本当は捨てきれてないことも知ってる」
心の氷が溶けていく。
油断したら涙が流れてしまいそう。
「だから翠ちゃんは翠ちゃんのタイミングで前に進めばいいと思う。そんな姿を今は一番近くで見守ってる。俺にできることはそれぐらいしかないからさ」
緑斗はまた私の頭を撫でる素振りをしたけれど、それが重なることはない。
緑斗はそれぐらいしかないと簡単に言ってしまうけど、それがどれほど心強いか分かってる?
誰かが傍にいること。
ひとりじゃないこと。
話を聞いてくれて、それを打ち明けることができて、慰めてくれる存在がどんなに大きいことか知ってるの?
「暗くなる前に帰ろうか」
交わることのない手を緑斗は差し出す。
いつか私もきみのためになにかできるだろうか。
そのためにはうつ向かないように。
誰かに元気を与えてあげられるぐらい強くなりたいと思った。