はじめて知った世界の色は


◇◆◇◇


「なに怒ってんの?」

私は隣を歩く緑斗をチラッと確認した。

いつも喋らなくていい時でさえ口を閉じることのない緑斗がさっきからずっと無言のまま。


「だって翠ちゃんが危ないことしたから」

自分だってあのあと窓から飛び降りて私と同じことをしたくせに。


「でも平気だったでしょ」

「俺が危ないことされるのイヤだって言ってんの」

それはいつもより低いトーンで。不機嫌だからか緑斗が少し違って見える。

……なんだよ、ちょっと男らしいこと言っちゃってさ。


ソワソワとしてしまう気持ちをこの暑さのせいにして、私はそのままコンビニへ。

買ったのはおにぎりふたつ。

近くの公園に着くころには辺りはすっかり暗くなっていた。


コンビニのビニール袋をベンチの上に置いて、私は勢いよくバチンッ!と腕を叩く。


「最悪、刺された」

ペラペラの部屋着で来てしまったせいかすでに3ヵ所も蚊にやられている。


「あんまりここに長居しないほうが良さそうだね。俺が頑張って追い払うからその間に翠ちゃんはおにぎり食べて」

さっきまでふて腐れてたくせに緑斗は蚊が近づくたびにフーと息で撃退してくれていた。
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