はじめて知った世界の色は
苦しさから解放されたくて家を飛び出したのに、距離が離れれば離れるほどため息の数が増える。
今頃はまだリビングで楽しそうな会話をして、
みんなお酒が回っているころだと思う。私が脱走したなんて知らずに三人で仲良く。
「逃げるって悪いことなの?」
そんな中、先ほどの返事を緑斗が遅れて返してくれた。
「悪い……ことなんじゃないの?」
少なくとも私の気持ちは逃げたからといって軽くはならない。だから私がしてることは意味がないことなんだと思う。
どうせまた家に帰れば同じこと。
ぐるぐると出口のない迷路に入り込む悪循環。
「翠ちゃんは俺といる時はお喋りなのにね?」
「……家族と話す時は喉が詰まるんだよ。そんな感覚、緑斗には分からないと思うけど」
言いたいことは沢山あるのにそれが声として外に出ないんだ。
「うーん、分かるよ。近い関係の人ほど本音を言えないものだからね」
まるでそれは緑斗自身のことを言ってるかのように私には聞こえた。
「……じゃあ、私が緑斗にこうして話せるのは緑斗が私にとって遠い存在だからなの?」
「……だから、なの?」
「私がそれを聞いてんの」