はじめて知った世界の色は


物心つく前の記憶はほとんど残ってない。だから近所の人からお人形と言われてたことも、その横でお姉ちゃんがどう思ってたかなんて、私は全然知らない。


「水族館に行った時もお父さんは翠の写真ばっかり撮って、お母さんは小柄な翠をいつも抱っこして」

「………」

「ハンバーグを切ってもらう時も、その帰り道に手を繋いでもらうのもいつだって翠だった」


私の楽しかった思い出の中に、そういえばお姉ちゃんの姿がどこにも見当たらない。

だって私の左にお父さんがいて、右にお母さんがいて、私はふたりに手を繋がれながら魚を見てた。

だから、その後ろを歩くお姉ちゃんの姿を私は知らないのだ。


「私のことも見てほしかった」

お姉ちゃんがポツリと呟く。 


「だからね、勉強を頑張って褒めてもらえる時だけが私もお姫様のような気分でいられたんだ」

お姉ちゃんが私に対して抱いていた劣等感なんて、本当に全く、これっぽっちも想像したことはなかった。
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