はじめて知った世界の色は
「うーん、それがさ。自分のことがよく思い出せなくて」
「ふざけるのとか本当にやめて」
「いや、真面目な話だって!」
幽霊だってことは隠さないのに名前を隠すなんてオカシイから多分本当のことらしい。
「うーん。名前、名前かあ……」と頭を悩ませているし、私もどうしていいか分からない状況が続く。
「なんか引っ掛かるんだよな。この漢字」
そう言いながら、さっき私が書いた〝翠〟を見つめる。
「じゃあ、アンタがみどりって名前だったんじゃないの?」
このご時世、女の子のような名前の男の子なんて沢山いるし。
「みどり?みどり?うーん。みどりねえ……」
「………」
「あ!みどり!」
なんだか閃いたように男の子が声を出す。
けっこう大きめな声だったからビックリしたけど、男の子はそんなの関係なしに空中で漢字を書く。
人差し指が下にいったり、上にいったり。それを目で追っているうちにだんだんと見えてきた二文字の漢字。
それは〝緑〟と〝斗〟
「多分、りょくと。うん。俺、緑斗って名前だった気がする」
自分で自分のことを確かめるような言い方だった。
「……りょくと?」
知り合いにも過去に出逢った人の中でもいなかった名前。初めて発した〝緑斗〟という名前は呼びやすくて魅力的で。
翠と緑斗なんて、偶然にも同じ色を表す言葉だな、なんて考えていると「似てるね」と先に言われて、やっぱりまた悔しい気持ちになった。