はじめて知った世界の色は
浴衣はずっと桐たんすに閉まってあったもので白地にアサガオの模様が書かれている。帯はシンプルな紺でキラキラとした飾りは蝶々の帯留めだけ。
髪の毛もただ高い位置でおだんごにしただけだし、人混みに行ったらボサボサになることは確実。それに。
「浴衣の柄は古いしお母さんも着付けるの久しぶりって言ってたからすぐ着崩れちゃうかもしれないけど……」
それでもなんとなく浴衣を着てみたい気分だった。
「お母さんに夏祭り誰と行くのって聞かれて誤魔化すの大変だったよ。緑斗のことは話せないし、お祭りに行く友達なんていないの知ってるからさー」
饒舌にペラペラと喋っても緑斗からの反応はない。
「えっと……聞いてる?」
急に不安になって弱々しい口調になってしまった。
もしかして内緒にしてたことを怒ってるとか?それとも今日はお祭りに行く気分じゃない?
喜んでくれるかなって思って色々と私らしくないことをしてしまったけど……。
すると緑斗はハッとした顔をして、やっと私に近づいてきた。
「ごめん。ちょっとビックリしちゃって……」
「ビックリ?」
「うん。翠ちゃんが可愛すぎて見とれてたんだよ」
「……っ」
なな、なにを急に言い出すんだろう。
緑斗は本当に言葉がストレートというか、そういうことを恥ずかしげもなく言うから困る。