はじめて知った世界の色は


駅前のお祭り会場ではすでにお囃子の音が響き渡っていて、歩行者天国になっている道路にはたくさんの出店が並んでいた。

やっぱり周りは家族連れやカップルだらけで、きっと他の人から見たら私はひとりで浴衣を着ている寂しい人って思われてそうだけど……。


「翠ちゃん!たこ焼き!しかも大ダコ入りって書いてある!」

人混みが関係ない緑斗は次々と人をすり抜けて、犬のように美味しそうな匂いがするほうに走って行ってしまう。

緑斗は食べられないから可哀想だけど、それでも私はせっかく着たんだし沢山食べるつもりでいる。


「……タコ小さっ」

緑斗に言われるがまま買ってみたけど全然大ダコじゃなかった。

「あはは、出店って大抵そうだよねー」

買わせた責任なんて負わずに緑斗はずっと楽しそう。


「私が食べたら緑斗も一緒に食べてる感じになればいいのにね」

ぽつりと本音。

だってよく言うじゃん。いなくなった人の分まで近い存在の人が食べたり飲んだりすると、その人も同じように満足するって。

私は緑斗の家族じゃないし血も繋がってないからそういうことはできないかもしれないけど、もしこのたこ焼きの味が緑斗にも伝わって緑斗も食べている気持ちになればいいなと思っただけ。


「ん?味はしないけど匂いはするし、翠ちゃんが美味しいなら俺も美味しいよ?」


ああ、きっと今のは違う。

緑斗が食べられたらいいなじゃなくて、私が一緒に食べたかったんだ。

きっとふたりで食べられたらもっと美味しいだろうなって。

< 87 / 180 >

この作品をシェア

pagetop