はじめて知った世界の色は


そして私たちはまた歩きはじめた。

下駄は思った以上に歩きにくくて大変だけど、緑斗はそれに合わせてゆっくりとスピードを落としてくれる。


「もしまた顔を隠したくなったら俺が翠ちゃんに合うお面を選んであげるね」

「今のトゲがある言い方だなあ」

「え、どこが?っていうかそのセリフ前に俺が言ったやつだよね?」

ふふ、と笑った自分に気づいてハッとした。


私、自然に笑えてる……。

驚いて、それでも少し感動して。そんな私を見て緑斗もまた笑う。

隣を歩く緑斗の手はぷらぷらとしていて、もし今内緒で重ねてもバレないと思った。

だからちょっとだけ小指をツンッと近づけて、もし気づかれたら人混みのせいにしようと考えていたのに緑斗は気づかない。

そりゃそうだ。


だって小指は重なってない。

するりと通り抜けて、私の隣には緑斗がいるのにみんなそこを歩いていく。

手を繋ぎたかったと言ったら、緑斗はどんな顔をするだろう。


そんなこと想像しなくても分かる。

緑斗はきっと困った顔をして『ごめんね』と謝るのだ。


だから私は言わない。絶対に。
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