はじめて知った世界の色は
「翠ちゃんの制服姿が見れるなんてちょっと感動しちゃうな」
私の隣には緑斗の姿。
学校に行くと決めて、その間緑斗はどうするのって聞いたらもちろん俺も一緒に行くよとサラリと言うもんだから、ふーん。そうかと私も受け入れてしまったんだけど……。
「あのさ、分かってると思うけど学校では話せないし、緑斗に構ってる時間なんてないかもしれないよ」
口元を抑えながら小声で話すことには慣れてるし、人に聞こえない声のボリュームもなんとなく分かってきたけど、さすがに学校ではそうもいかない。
「あはは、大丈夫。俺のことは気にしないで翠ちゃんは翠ちゃんの学校生活を送ってよ」
……そう言われてもなあ。
まあ、緑斗が傍にいることは心強いからいいんだけど、話しかけられたら普通に反応しちゃいそうだよ。
「翠ちゃんを見てると俺も頑張らなきゃって思うんだよね」
見慣れたはずの緑斗の横顔は本当に整っていて、やっぱりすれ違う学生たちとは違うなと意識させられる。
「あ、翠ちゃん。信号変わりそうだよ!急いだほうがよくない?」
「うわ、本当だ。あの信号、赤になるとなかなか変わらないから」
私はそう言って走り出す。
不安はあるけど、こうやって走れるぐらい私は少しだけ強くなれたと思う。横断歩道を駆け抜けて青信号がチカチカと点滅している。
「……俺もいつか前に進めるかな」
その後ろで緑斗が呟いた言葉なんて私の耳には届いてなかった。